※ネタバレあるし、とにかく先入観無しで臨んでほしいと切に思うので観劇予定のある方は回れ右してね!!!!!!!
前回記事(https://kibunsonouchi.hatenablog.com/entry/2022/10/15/233533)の続きになります。時間が経って気持ちがクールダウンしたら、改めてこんなんじゃ書き足りない!と思った次第です。
まず登場人物について。
野田中のジジイ
ジジイ、は親しみを込めたつもり…笑 愛嬌がある上に、一般市民とかけ離れた立場ながらとても分かりやすいキャラクターだったと思う。
この物語における「悪の親玉」として描かれているんだけど、私はこの野田中という男に好感を持っている。権力者であることに違いはないし人を支配する立場なんだけど、「悪」なのか?というと違和感を覚える。そりゃ川周辺の栄えてない方に住む人々からすれば絶対悪で敵に当たる。自分らを利用してのし上がろうとしているんだもの。でも私は川周辺のどん詰まりの住民ではないから、私にとっては悪ではない。犠牲があることを無視はできないが、やっていることはあくまで公共事業。側から見れば昔こういう経緯で苦労した人たちがいた上で街が発展したんですね、という史実に過ぎない。
「川がないなら作ろう」という発想が東京っぽいし無茶苦茶だ。でも、嫌がらせのためにそんな大変なことをするはずがない。少なくともバスのためにわざわざ川を作るはずがない。
観劇後にパンフレットを読み込んだら、新中川が人工的に作られた経緯が書かれていて「フィクションじゃないんかい!」と度肝を抜かれた。土地の性質上、やっぱり必要に駆られて作られた川だったそうだ。
確かに橋をかけなかったのは、バス会社のための明らかな嫌がらせだけど、川による分断はちょっと違うよね。
野田中の行為は「徹底した支配」。かなりのやり手だし、野田中の確かな行動力、実践力、特にぶれずにそれらを成せる心の強さは劇中で政子も的確に評している。繰り返すが当事者からすれば死活問題でたまったものじゃない。野田中の支配は悪の所業だ。そこに温情などない。
でも社会で働くって…そういうことじゃない?野田中レベルになると極端だし私の想像の及ばないところだけど。私に特別な地位はないけれど、仕事をしていたら大なり小なり感情を捨てなきゃいけない場面が出てくる。感情という名の心こそ余計で邪魔なものなんだと思わされる。私は製造の仕事をしているから人と接する機会は限られているし立場は下っ端。それでも、だ。野田中は「会長」という上の立場にいる。ということは、会社の社員を何人も抱えている、それだけの人の生活を預かっているわけだ。まあ…汚い金があったり、格差も存在しているし、綺麗なトップではないのだろうが、会社の発展は野田中だけが必要としていることではない。これは当事者ではなく客として、出来事を俯瞰して観ているから言えることだ。
それにもっと言うと…野田中は権力者ではあるが、更に上の立場の人間だって沢山いるはず。登場しなかっただけで、是政も叫んだような「都」や「国」が。つまり野田中も上の方で何かしら挟まれている立場。
全面に押し出されるほどじゃないけど、常に不条理な空気がまとい、つくづく仄暗いお話だ。
底根八起子
名は体を表す。しかし何て名前だ。八回起きてるということは少なくとも七回は転んでいる。今回のお話の中で、何とか幸せになってほしいと最も思ったキャラクターだ。
彼女は誰が見ても板挟みの立場にある。どん詰まりのやかましい(何せいっぺんに喋る!サウスパークの「やいのやいのやいの!」を思い出した笑)住民達の相手をし、上手くいなしつつ区議会議員に意見を提出しようとするもそれは聞き入れてもらえない。野田中にしても彼女の意見は何の効力も持たない。
当然ながら底根は好きで上に意見を通せないわけじゃない。会議室?で野田中の企みにドン引きしている場面があったり、時には住民達の手助けを彼女なりにしようとする。人の心が残っているが、結果彼女にできることはない、苦しい立場にいる人だ。ただその苦しさを劇中では外に出さない。あくまで明るく振る舞うし、自己を肯定していて常に気丈だ。
そのために、住民たちに起こる悲劇についてしょうがないと割り切っている節があるけど、当然の流れだと思う。彼女は強すぎてむしろ人間味がない。野田中でさえ、立場故の弱音を吐露していたのに。…底根もきっと劇中では見えないところで発散しているはず。あんな、貧乏人が!と怒鳴るくらいじゃ足りないよ。発散できていますように!!
白渡由乃
第一印象は、凛とした「綺麗な女性」。だったのだけど、彼女もあまりに強すぎるキャラクター笑笑
住民に襲われている是政を助けて栄えている川向こうの街に連れて行くシーン。過去に是政によって彼女が負った傷について、何度も彼女の口から語られた後、真っ暗だったバックがぱっと明るくなり川向こうの住民がずらり。
ただでさえ負傷して弱っているこの時の是政の背中があまりに小さく感じたし、あ、これ終わったな…と思った。助けられたと思ったら、由乃になら頼って良いと思っていたら結局は多勢に袋にされる運命か…
と思ったよ!てっきり!
川向こうの住民たちはやれ男の方だとかお嬢さんだとか話しているし、由乃は当たり前のように手にグローブをはめる。
いやあんた本人が殴るんかい!!!!
自分の恨みつらみは自分の手で発散する。ただの箱入り娘じゃない、彼女もまた強くて何より面白い女だ…と思っていたら是政にも同じグローブをはめさせる。
まさかのボクシング一騎討ち!?
白渡由乃、面白い!!ボクシングという方法をとったこと自体は唐突で盛大なギャグシーンだと感じてしまったけど。
是政に過去の結婚式の件を話している様子なんかは、なかなか重たい…内容が内容だけど話し方がとにかく、由乃の傷がどれほど大きなものであり日々あの件で頭が埋め尽くされていたことか。
にも関わらず、由乃の取った行動はまさに正々堂々。是政を一方的に殴ってボコることも可能だったろうに。是政にも同じ武器を渡すことで、双方攻撃のできる平等な殴り合いに(強引に)持ち込んだ。
是政にも全力で向かってきてほしかったんだと思うと、由乃が本気で是政を愛していたことが伝わってきて切ない。その上で、もうよりは戻らないと理解しているから吹っ切る覚悟を決めた。だから自身の手で是政を殴りまくった。
彼女も幸せに…きっとなれてる彼女なら。
他にも、というか登場人物みんなみんな魅力的だった。柳英起もすごく良いキャラだったし…いるだけで謎の安心感。書ききれません!
全員、完璧じゃないところが好き。良い人もいないし悪い人もいない。そんな人物達を舞台で観られるからこそエグいくらいの人間らしいリアリティがある。
そして是政と政子。観劇から1週間が経った今、心の中で存在感を放って居続けているのはこの2人だ。
前回の記事に書いたことから考えは大して変わっていない。共感はしていないし、2人の幸せを願う気持ちも起きない。
でも、戦い抗い続ける者がそこにいたという事実、その姿がとても鮮烈だ。ずっとずっと忘れたくないな。
不安定な時代でしかも戦争を経験している。でもこの兄妹の親を奪ったのは戦争というより……。実際は違うと思うが、政子は特に「自分のせいで母親はいなくなり、そこから崩れていった」と思ったまま大人になったのが難しいところ。その時点で彼女に光はなかった。
言葉にできないし、わからない。でも少なくとも佐竹兄妹のことを嫌いではなくなったかな…。
政子は上から人を見下ろして皮肉を言うような人、だけど、それだけ皮肉が出るということはそれだけ物事が見えているということ。人よりものがよく見えるって、それもそれで辛いこと。難しいキャラクターだ。
今回の話は観た直後と、時間が経ってからで大きく印象が変わると感じた。その場でわからなかったことや受け入れられなかったことが、落ち着いて考えていくと腑に落ちることが多い。
例えば、今作の名台詞とされる
『全速力で迂回しろ』
『プラスでもマイナスでも良い、0が1番嫌だ(うろ覚え…)』
前者は「急がば回れ」と似ていると思うが、その回り方について言及していると考えてみたら面白くて親近感が湧いた。
俗な表現だけど、噛めば噛むほど味のするスルメのようなお話…に当たると思った。舞台というリアルタイムで感動を浴びるナマモノの作品でこういう経験ができるのは予想外で、すごく面白い。
舞台装置について
映画やドラマのような映像作品とは違う、どちらかと言うと実体験のように感じる舞台。まだ数えられるくらいしか観たことはないけど、特有の「魅せ方」というのが本当に面白くて!!!!!
当然、舞台というのは演じるフィールドの大きさが物理的に限られている。決まった大きさのステージの中で、いかにしていくつもの場所、時間軸を表現していくのか。今作も例に漏れずとても面白かった。
建物が横に広がるだけでなく、中央に大きな階段を渡らせたことで上下の広がりがあった。客席から見てもけっこうな長さのある階段に見えた。演者たちが昇り降りに時間を要していた印象。ここがこじんまりとしていたら街っぽくなくなってしまうし、しかも階段がくねくねしていたところが入り組んだ街を引き立たせていて良かった。
かと思うとステージ上で暴れていた是政が、一瞬で街(セット)の1番上にいたり。いつの間に階段を駆け上がっていたのか!とにかく身体の動きが速く、あっという間に縦横無尽に移動してしまう姿がカッコ良かったし、ハッとした。
空間の見せ方が面白いな〜と思っていたらメタ的なシーンもあって、そこがあまりに潔くてこれもまた面白かった笑
ペンキ屋がボートで荒れた川に繰り出すシーン。川はセットの最上部から向こうにあることになっていて客席からは見えない。(例外で兄妹達が川に繰り出した際には模様の映し出された大きな布で「川」が表現されてはいたが)
だから様子を見に行った住民がペンキ屋の様子を事細かに実況してくれていた。
「ペンキ屋が!ボートに乗ったぞー!」とか
「ペンキ屋のボートが!どんどん沈んでいくぞー!」とか笑笑
どうやったら自然に見せられるかだけではなく、違和感を隠すことなく堂々とやってしまうやり方も潔くてとても好き笑 住民が一生懸命実況している中ペンキ屋の奥さんは様子を見に行ってすらいない。変なんだけど、印象に残っている。不便や制限も楽しんでしまえるアクセントとして良い意味で!
制限だなんだと思っていたら、不可能などない!と言わんばかりのぶっ飛んだ演出が突然現れる。文字の通り、バイクが客席の上をぶっ飛んだ。これこそ!一生忘れない…
バイクは実際のものが使われていてステージ上を走る様もとても迫力があった。だから見た目的にも重さのあるもので、宙を舞う…なんて思わないじゃない。でもこの作品に触れて、バイクは飛ばないと思い込んでいた私が間違っていたとよく分かりました!!!目から鱗が落ちました。
また、劇中で街中の看板をスクリーンに見立てた演出が2か所ある。バイクタクシーの仕事中にブチ切れた是政と、菊田の宣戦布告(?)
本当に何でもあり!!!前者はギャグ感が相まってシュールで面白かったし、表情をよく見せてもらえたのが素直に嬉しかった笑 後者は事態の深刻さや嫌な気持ちを増幅させてくれて良かった。
しかしあくまでリアルタイムで楽しませてくれる舞台だから、スクリーンを用いた映像を多用せず2か所に留めたのもすごく丁度良いと思う。
このスクリーンの演出が印象的だったのもあるし、登場人物の感情やエネルギーが放出されぶつかる展開、
この作品、漫画にしても面白そう〜なんて考えてしまった。
舞台のための作品だと分かっているつもりだけど、漫画ならではの見せ方で情景や人物の表情などを動きのある大きなコマ割りで魅せていくのも面白そう〜と妄想が止まらない笑
何回か舞台作品を観た中でこんな風に思ったのは初めてである。
元気について
前回記事に書き忘れた大事なこと。私はこの作品から「怒り」という形で元気を頂いたと感じていたけど、それだけじゃない。
「何があっても自ら死を選択することはあってはならない」と強く思わされたことだ。もっと短く言ったら「何があっても絶対死ぬな」。
(結果オーライとは言え)崖からバイクで飛ぶことをした佐竹兄妹に強い怒りと反発を覚えたからこそ、心の底から「みっともなくても、情けなくても生き抜いてやろう」と思った。やっぱり私は流されるままの住民に考えが寄っているかも…?
「死にたい」と思うことは長らく私にとって日常だ。年々かなり頻度は減っているし特に病歴があるわけではなく至って健康ではあるけど、死にたいと思うことも何らおかしいことではなく普通だと思っている。(現に今生きているし。)私はそんな人間なんだけど、嘘偽りなく「生き抜いてやる」と思ったのはいつぶり…?というか大人になってから初めてかもしれない。
これこそ、作品から頂いた最大の元気であり生命力だ。これには感謝しなければならない。時間をかけて…(思い出すとやっぱりまだ少しモヤモヤする笑)
こんなに色々言葉が出てくることも、腹が立ってしまったことも、間違いなく面白くて「良い作品」だからこそ。観劇できて良かったと断言できます。
大千秋楽まで無事に完走できることを祈っております。